2024.04.15
2024.05.08

犬歯と八重歯の違い

 

 

近年、歯科を受診される患者さまのニーズは多様化しつつあります。一昔前までは、白い詰め物や矯正治療といった、いわゆる「審美歯科」はそこまでメジャーではありませんでした。
しかし、近年お口の中の関心が高まっていることに併せて、ただ治すだけでなく、綺麗に治すことやキレイな状態を手に入れるといった、審美領域にも関心が高まっています。
審美歯科とは、セラミックを使った白い被せ物や詰め物の治療であったり、矯正治療といった美しい歯並びを手に入れたりする治療のことです。
今回は、審美歯科の中でも矯正治療について、特に「八重歯」に焦点を当てて、説明します。

「八重歯」って何?「犬歯」と何が違うの?

多くの方が「八重歯」という言葉を1度は耳にしたことがあると思います。
八重歯に対するイメージは人それぞれあると思いますが、どのような状態を指すのかについて、まずは説明します。
「八重歯」とは、「歯が叢生の状態」の俗称です。「叢生」とは、矯正の専門用語の一つで、不正咬合、つまりかみ合わせが悪い状態をいいます。具体的には、歯並びに重なっている部分がある状態を指します。
叢生は最も一般的な不正咬合の一つで、厚生労働省の報告では、12歳~20歳の日本人男女のうち、約45%の方が、叢生を有していると報告されるほど、非常によく見られる不正咬合です。

この「叢生」は、主に歯の大きさと顎の大きさとの不調和によって生じます。歯は顎の骨という枠の中に埋まっていますが、近年日本人は顎の骨が小さくなってきていて、歯が十分に入り込むスペースが確保できなくなっています。
一方で歯の大きさが変わることはあまりないため、狭い枠の中に歯が十分に並ぶことができずに、ガタガタした歯並びになることが多くあります。
次に「犬歯」についてです。「犬歯」は真ん中から数えて3番目の歯で。「糸切り歯」ともいわれます。
犬歯に「犬」という文字が入っているように犬や猫と同様に尖っていることが特徴です。
永久歯(大人の歯)が生え揃う時に多くの場合、犬歯は最後に生えてきます。その際に十分なスペースがないと犬歯に叢生が生じやすくなるため、「八重歯」=「犬歯」のイメージがついたようですが、実は意味合いが異なります。
前から4番目の歯でも「叢生があったり、歯列から外れたりした歯」の場合は、八重歯と呼ばれることがあります。

八重歯はカワイイ?

有名人や芸能人の中にも「八重歯」がある方もいます。欧米では「八重歯」は吸血鬼(ドラキュラ)をイメージさせるため、あまり良いイメージは持たれていませんが、日本人は違うようです。
「八重歯」=「カワイイ」、笑顔の時のチャームポイントになるという印象を持っている方がいるようです。
ある研究で「日本で八重歯がカワイイと思われている」ことについて次のような理由が関係しているのではないかと述べられています。それは「若さが関係している」、「幼児性が潜んでいる、つまり童顔に見られやすい」、「未完成のとしての美しさがある」です。気になる方は、「八重歯の考現学」という論文を検索してみてください。

近年、徐々に日本人でも「八重歯」を治療したいという方も増えてきてはいますが、まだまだ少数派でしょう。
このため、八重歯を自分のチャームポイントとして、そのままにしておく方もいます。
しかし、それには様々なデメリットがあります。

八重歯のデメリット

「八重歯」は不正咬合である以上、デメリットが存在します。

①虫歯、歯周病のリスクが高まる

本来の歯並びから外れてしまった歯は、虫歯や歯周病のリスクが高まりやすい状態です。普段の歯磨きでは、十分に磨くことができなかったり、唾液による自浄作用を十分に受けられなかったりする状態にあります。
これによって、細菌が増殖し、それが長時間継続すると虫歯や歯周病を発症します。
また、歯並びが他の歯と重なっているため、診察やレントゲンで虫歯の発見が難しくなり、遅れる可能性もがあります。

②他の歯の負担が大きくなる

犬歯は肉食動物で発達しているように、肉などを噛みきるのに一番効率的な歯です。
しかし、八重歯の状態では、食料をしっかりと咬み切ることが難しくなります。その機能を他の歯がしなければならないため、他の歯の負担が大きくなります。
また、このほかに犬歯には実はとても大切な役割があります。あまり知られていませんが、犬歯は、下あごの運動時にガイドとなっていることです。つまり、下あごの運動は犬歯によって、動く方向が制限されています。
八重歯が原因でこれができないと、他の歯に大きな負担がかかることになります。
負担が大きくなると知覚過敏の症状が出やすくなったり、歯にヒビが入ったりする可能性もあります。
最悪の場合、歯が割れてしまう可能性もあります。

③口内炎ができやすい

犬歯は尖った形をしています。本来の歯並びに犬歯があれば、唇や頬っぺたの粘膜を傷つけることはあまりありません。しかし、八重歯の場合は違います。本来の歯並びから外れているため、お口の中の粘膜を傷つける可能性が高くなります。粘膜にずっと傷がついていると最終的に口内炎ができてしまいます。

④口が閉じにくい

八重歯があることで唇を完全に閉じることが難しくなったり、唇を閉じた時に犬歯だけが見えてしまったりすることがあります。するとお口の中が乾燥気味になります。
お口の中は唾液によって常にウェットな状態が維持されていますが、唇が閉じきれないと、外気によってお口の中が乾燥してきます。お口が乾燥すると、細菌が増殖しやすくなるため、虫歯や歯周病のリスクが高まるだけでなく、口臭の原因になることがあります。
これは、唾液によるお口の中に細菌が増えることを抑える能力(自浄作用)が落ちてしまうからです。


ここで述べたように、八重歯には様々なデメリットがあります。ただ「カワイイ」といった理由だけで何も治療せず、歯を失う可能性を高くしてしまっては本末転倒です。これらの理由から歯科医師は、八重歯を治療することを勧めます。そこには、歯を守りたいという思い、信念がありますす。

八重歯の治療法

八重歯の治療法として、「矯正治療」があります。矯正治療は、歯並びを整える治療のため、基本的には自費診療になります。しかし、それでも余りある効果が期待できます。
八重歯の矯正治療は、ガタガタした歯をきれいに配列したり、歯を引っ張り本来の高さまで持ってきたりする治療がメインになります。歯並びがガタガタになる原因である顎の骨の大きさが小さく、スペースが不足している状態からスペースを作るために歯を抜く可能性もあります。
詳しくは、歯科医院でしっかりと検査を行い、診断しますので、歯科医師に相談しましょう。

また、矯正治療には、大きく分けてワイヤー矯正とマウスピース矯正があります。
どちらも、八重歯の矯正治療を行うことは可能ですが、八重歯の程度によっては、向き不向きがあるので、歯科医師とよく相談して決定するとよいでしょう。その際には、矯正方法に応じたメリット・デメリットをしっかりと理解することも大切です。わからないことがあれば遠慮なくお尋ねください。

まとめ

今回は八重歯について、犬歯との違いや原因、日本人的な感性、八重歯によって起こりうるリスク、治療法について説明しました。八重歯をチャームポイントとして受け止めることもよいことかもしれませんが、歯・お口の健康という観点からは治療を行うべきです。虫歯になったり、歯周病になってしまったりした歯は、二度と元の状態に戻ることはなく、一度失ってしまうと代えはありません。
矯正治療を行うことで、美しい歯並びを手に入れることはもちろん、噛みやすくなったり、歯を磨きやすくなったりと多くのメリットを実感できるでしょう。

八重歯以外にも自分の歯並びが気になる方は、是非ともご相談ください。
また、小さなことでも相談できるかかりつけ歯科医院を持っておくことは非常に重要です。
今回の内容から、皆さんが少しでも自分のお口の中に関心を高めてもらえれば幸いです。
ご来院を心よりお待ちしております。